メタル回線とデジタル回線、 デジタル回線とSIPトランクの違いとは?

ケーブルのイメージイラスト
目次

メタル回線(メタル設備)とは?

メタル回線は、その名の通り銅線(銅線)を使って音声データを伝える仕組みを取っている回線です。

メタル回線の概要と特徴

電話で使用される音声データを伝えるための回線には、「メタル回線」や「光回線」といった種類があります。 メタル回線の代表的なものとしては、アナログ回線デジタル回線が挙げられます。 光ファイバーが誕生する前に登場したのがメタル回線であり、光回線との主な違いは「通信ケーブル」と「データ伝達方法」にあります。

メタル回線では銅線で直接音声データを伝送します。また、データ通信で使う周波数と音声通話で使う周波数は基本的に異なりますが、メタル回線では既設の回線をそのまま使って、電話の音声通話だけでなく、同時にインターネットでのデータ通信もできるという利点がありました。

メタル回線のデメリットとして、電話局から離れた場所で利用する場合、伝送の減衰が大きくなり、音声が途中で切れたりかすれたりといった品質低下が起きるおそれがある点が挙げられます。

コールセンターで働く女性がメタル回線のデメリットによって困っているイメージイラスト

将来的な動向

このメタル設備を利用した加入電話サービスは、利用の減少や老朽化した設備の維持限界により、2035年ごろまでにはサービスレベルの維持が困難な状況を迎えるとNTT東西は発表しています。これは、光ブロードバンドやモバイルサービスの普及・拡大が背景にあります。

NTT東西は、メタル設備を利用した加入電話について、光回線やモバイル回線を用いたサービスへの移行を段階的に実施することで、引き続き安心して固定電話サービスを利用できる環境を維持すると説明しています。

光回線とモバイル回線に手で紹介している男性のイメージイラスト

デジタル回線とアナログ回線との違い

デジタル回線とアナログ回線は、ともにメタル回線の代表的な種類です。これらの回線は、音声やデータを伝送する方式に違いがあります。

アナログ回線

アナログ回線は、従来の電話網(PSTN:公衆交換電話網)で使用されてきた接続形態です。

 電話局と利用者の家をつなぐ「ローカルループ(local loop)」は、通常、一度に一つの通話しか運ぶことができません(コールウェイティングがある場合は2回線だが、一度に通話できるのは1回線のみ)。

 デジタルTDM(時分割多重化)を使用するデジタル回線が登場する以前は、FDM(周波数分割多重化)を使用するアナログトランク回線も存在しました(1930年代に利用され始めた)。アナログトランクは、約3kHzの帯域幅を持つ複数の音声通話を周波数帯域で積み重ねる(スタッキングする)ことで、理論上、1本の回線で最大10,000回線分の同時通話を送ることができました。

アナログ技術は旧式であり、多くの機能を利用することが制限されています。

デジタル回線

デジタル回線は、複数の通話を同時に運ぶことができるトランク(trunk)という概念に関連しています。

トランクとは、電話局間や交換センター間で運行される回線のことで、TDM(時分割多重化)を使用して複数の通話を同時に運ぶことができるデジタル回線(例:T1やE1 PRI)を指します。トランクは、個々の通話パスに対して個別の回線を持つよりも効率的であるため、電話局と交換センター間で利用されます。

PRIはデジタル回線の一種で、最大23チャネル(通話)を収容できました。

デジタル回線(トランク)は、アナログトランクとは異なり、TDMというデジタル技術を用いて複数の同時通話を可能にした回線です。アナログ回線(ローカルループ)は、通常、一度に一つの通話しか扱えませんでした。また、アナログ技術(PSTN)は、IPプロトコルを利用した現代の技術と比較して、提供できる機能が限定的です。

上限ありのメタル回線に不満を持つコールセンタースタッフのイメージイラスト

SIPトランクとデジタル回線の違い

SIPトランク(Session Initiation Protocol Trunking)は、VoIP技術を用いたサービスであり、従来のデジタル回線(特にPSTN/PBXで使用されていたTDMベースのトランク)とは根本的な技術と機能が異なります。

SIPトランク(Session Initiation Protocol Trunking)

SIPトランクは、Session Initiation Protocol (SIP)に基づいたVoIP(Voice over Internet Protocol)技術であり、ストリーミングメディアサービスです。

SIPは、2つのエンドポイント間の通信を定義するために使用されるプロトコルです。SIPトランクは、PBX(構内交換機)と公衆電話システム(PSTN)の間に仮想的な電話接続(virtual telephone connection)を作成します。

 SIPトランクは、インターネットなどのIPネットワーク上に作成された仮想回線を通じて、複数の通話(マルチプルコール)を可能にします。音声はインターネット経由で送信するためにデータパケットに変換されます。

 SIPトランクは、従来のPRI(デジタル回線)が最大23チャネルであったのに対し、提供業者やプランに応じて5チャネルから100チャネル以上、あるいは無制限の通話チャンネルを持つことができます。

5チャネルから100チャネル以上の通話チャネルを背景にガッツポーズをする女性スタッフ

SIPトランクは、SIP対応のPBX(IP-PBX)やCTI/Cloud PBXなどと接続され、URL、IPアドレス、許可されるコーデックなどのSIPパラメーターが定義されます。

 SIPトランクは、従来のレガシーなPSTN時代における「トランクライン」(複数の通話を送れる電話回線)の現代版であり、IPネットワーク上でSIPプロトコルを使用してキャリアに接続するものです。この技術は、電話網がPSTNネットワークを廃止し、IPプロトコルを使用する方向に進むという通信業界の目標に沿ったものです。

デジタル回線(PSTN/PBXのトランク)

デジタル回線(トランク)は、主にPSTN(公衆交換電話網)環境で使用される回線でした。

デジタル回線は、TDM(時分割多重化)を使用して一度に複数の通話(チャネル)を伝送できる物理的な回路(T1またはE1 PRIなど)です。

PRI(デジタル回線の一種)は、物理的な回路を通じて提供され、チャネル数に上限(通常23チャネル)がありました。

 従来の音声用PRI(デジタル回線)をデータ用T1に変換し、その物理回線上でSIP(VoIP)を使用することで、同じ物理回線でありながら、例えばG.729コーデックを使用して約46チャネルというより多くのチャネルを確保できる事例もありました。

SIPトランクとデジタル回線(トランク)の主な違い

項目SIPトランクデジタル回線(T1/E1 PRIなど)
基盤技術VoIP/SIPプロトコル、IPネットワークTDM(時分割多重化)
回路形態仮想回線(Virtual circuit)物理回線(Digital circuit)
伝送方式音声をデータパケットに変換してインターネット伝送デジタル信号として銅線等で伝送(メタル設備の一部)
チャネル数非常に柔軟で拡張性が高い(5ch, 100ch, 無制限など)物理的な制約があり、通常は最大23ch(PRI)

将来はどうなっていくのか?

現在日本では従来のメタル回線(アナログ/デジタル回線)から光回線やモバイル回線を利用したIP網への移行が急速に進んでおり、デジタル技術を活用したサービス(SIPトランク、クラウドサービスなど)の普及が主流となっています。

現在の普及状況と将来の動向

光ファイバの普及率

2022年度末時点で、我が国の光ファイバの整備率(世帯カバー率)は99.84%に達しており、インフラ整備は非常に進んでいます。総務省は2028年3月末までにこの整備率を99.9%とすることを目標として取り組んでいます。

モバイル通信の優位性

近年、固定通信(メタル回線を利用した加入電話等)の契約数が減少傾向にある一方、携帯電話やBWAなどの移動通信の契約数は堅調に伸びており、2024年末時点には移動通信の契約数は固定通信の約17.3倍になっています。

5Gの拡大

移動系超高速ブロードバンドサービスのうち、5G契約数は前年同期比で23.8%増となっており(2024年末時点)、急速に拡大しています。

IP網への移行

NTT東西では、2024年1月から固定電話回線をIP網(インターネット接続で音声通話ができるネットワーク)に切り替え、移行させました。

― 柔軟性

SIPトランクは、現代のデジタルな「電話回線」として、従来のシステムよりも柔軟性を提供します。

― インターネット回線のみ

SIPトランクはインターネット回線が繋がる環境だけで利用でき、交換機などを設置せずにお使いいただけます

― クラウド化

特に法人分野では、PBX(構内交換機)やCTI(電話とコンピューターの統合)のクラウド化が推進されています。

― 双方向番号ポータビリティ

2025年1月からは、NTT東西のひかり電話番号や他事業者の指定番号についても双方向番号ポータビリティが可能となり、お客様が使っていた固定電話番号(03/0120/0800など)を変えることなくSIP回線への切り替えが可能になりました。これにより、旧来のサーバー式PBXを利用している顧客のクラウド化が推進されるチャンスとなっています。

笑顔のコールセンター女性スタッフと男性
メタル回線の終了

メタル回線を利用した固定電話サービスは、NTT東西により2035年ごろに終了すると発表されています。

代替サービス(IP電話)

メタル回線の代替サービスとしては、すべてIP電話サービスである「光回線電話」「ワイヤレス固定電話」「ひかり電話」が提供されます。これらの代替サービスへの移行にかかる工事費などの初期費用は無料とされています。

クラウドPBXの台頭

今後、テレワークの普及に伴い、高額なPBXやビジネスフォンをオフィスに設置する必要がなく、インターネット接続環境があれば場所を問わず会社の電話番号で対応できる「ひかりクラウド電話」などのクラウドPBXサービスが推奨されています。

なぜ将来は光回線やモバイル回線中心となるのか?

将来的に光回線やモバイル回線が中心となる背景には、技術的優位性、インフラ維持の限界、そして社会のデジタル化の加速があります。

メタル回線の老朽化と維持の限界

公衆交換電話網(PSTN)の設備(中継交換機・信号交換機)は2025年頃に維持が限界を迎えることが、固定電話網のIP網移行が進められた主要な要因の一つです。NTT東西は、メタル設備を利用した加入電話の利用減少と設備の老朽化を理由に、2035年ごろのサービス終了を発表しています。

光ファイバの持つ技術的優位性

メタル回線が抱えていた品質の課題を光回線が解決します。

光回線は、電気信号ではなく光を点滅させることでデータ通信を行うため、伝送スピードが圧倒的に向上しています。

メタル回線では、電話局からの距離が離れると音声品質が低下する(伝送減衰)という問題がありましたが、光ファイバーケーブルを用いた光回線は、周囲の環境や電話局からの距離に左右されることなく、安定した通信を実現できます。

今後、AIやDXの進展に伴い、大容量・高精細の動画・画像データをリアルタイムでやり取りするニーズが劇的に増加することが予想されており、これを支える5Gや光ファイバ等の高度通信インフラの必要性が今まで以上に高まります

社会のデジタル化と通信需要の増大

スマートフォンなどのモバイル通信やブロードバンドサービスの普及により、コミュニケーションの方法が多様化し、固定電話の加入数は減少しています。

ファイル保管、データ共有、電子メール、給与/財務会計、スケジュール共有など、企業活動におけるクラウドサービスの利用が拡大し続けています。AI技術の進展も目覚ましく、日々新たな技術やサービスが生活や経済活動に大きなインパクトをもたらしています。

5G(超高速、超低遅延、多数同時接続)はAI/IoT時代の不可欠なインフラとして期待されています。また、NTTが提唱するIOWN構想(光を中心とした革新的技術)や光電融合技術は、電気信号-光信号の変換を極力なくすことにより、低消費電力・低遅延・大容量を実現する次世代情報通信基盤の中核技術であり、将来のゲームチェンジャーとなり得ます。これらの技術も、光ファイバのインフラに依存しています。

このため、メタル回線はその役目を終え、高速・大容量通信が可能で、かつ将来的な技術革新(AI、IOWNなど)に対応できる光回線(IP網)とモバイル回線が通信インフラの主流として定着していくことになります。

補足:SIPトランクが普及する背景

SIPトランク技術は、IPネットワークを通じて仮想的な通話チャネルを提供するVoIP技術であり、従来の電話回線(メタル回線上のアナログやデジタル回線)では得られない利便性を提供しています。

設備不要とコスト削減

SIP対応のCTI/PBXがあれば、既存の設備を変更せずにSIPトランクサービスを利用でき、交換機などを設置する手間が不要です。また、通話料金が秒課金で提供される場合があり、通話料のコスト削減が期待できます。

番号ポータビリティ

2025年1月からは固定番号の双方向ポータビリティが始まり、固定番号を保持したまま(番号を変えずに)SIP回線に切り替えることが可能となり、クラウドPBXへの移行が容易になりました。

柔軟な通話数(チャネル数)

従来のPRI(最大23チャネル)とは異なり、SIPトランクでは、必要に応じて5チャネルから100チャネル以上まで柔軟に通話数(チャネル)を設定できます。

多様なキャリア選択

LIPSE SIPトランクサービスのように、複数の大手キャリア回線と独自の回線を組み合わせて利用できるサービスもあります。

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