トランクとは?

SIP以前のトランク技術と仕組み
「トランク」とは
「トランク」という用語は、もともと電話柱を使った古い時代の電話技術から来ており、異なる地域や町同士を結ぶ回線を指す言葉です。
PSTN/PBXの世界では、回線は主に2種類に分類されていました。ローカルループ(local loop)とトランク(trunk)です。
ローカルループ(Local Loop)
電話会社の中央局と一般家庭や企業を結ぶ回線です。
通常、一度に1コールのみ(キャッチホンなどで切り替え方式であれば2コール)しか運べません。
トランク(Trunk)
中央局と交換センターなどの間を結ぶために使用されました。
ローカルループでは、1つの回線で一度に1コールしか運用ができず、電話の需要が高まるにつれ1度に複数の通話ができる仕組みが必要となりました。これを実現するために登場したのが「トランク」技術です。
ローカルループ時代は、多くの回線をつなげないため、様々な工夫やトラブルを抱えながら運用されていました。たとえば…
1本の線を近所みんなでシェア:パーティライン
昔のローカルループは、1本の回線を複数世帯で共用(パーティライン)していることがよくありました。 例えて言うならば1つの糸電話にたくさんの糸をつないだような状態です。もちろん全部同じ回線なので、受話器を上げれば、今話している他人のも聞くこともできてしまい、プライバシーは確保されていませんでした。電話番号も1つしかないので、パーティラインでつながれた家の電話は、どこからか掛かってくると一斉に全てがなります。ですから、誰宛にかかってきたかを識別するため、A宅は「長い呼び出し1回+短い呼び出し3回」のような符丁をつくり、認識していました。(注1)
アナログ・トランク(FDM)の時代
FDM(周波数分割多重化)とは
トランクにはデジタル式とアナログ式があり、1930年代初頭にFDM(周波数分割多重化)を使用したアナログ・トランク回線が登場しデジタル式に切り替わるまでの主流の方式でした。(注2)
FDM(周波数分割多重化)とは、例えるならば、高速道路の複数車線のように、一つの回線を周波数ごとに区切り、同時に多くの通話を流す仕組みです。音声だけでなく他の信号もまとめて運べるため、回線を効率よく使える技術です。
音声通話1回線あたりに必要な帯域幅は約3kHz(注3)でした。FDMでは、これらの周波数帯域を重ね合わせる(スタッキングする)ことで、理論上、1つのアナログ回線やマイクロ波無線リンクで最大10,000回線の同時通話を送ることが可能でした。(注4)
アナログトランク(FDM 時代)を判りやすくイメージすると…
腕の太さのケーブルに「10万回線」が詰まっていた
戦後〜70年代ごろ、長距離回線では同軸ケーブル+FDMが主役でした。
AT&T の L5 同軸システムでは、同軸ケーブル1対で 10,800通話、22本束ねたシステム全体では10万通話超も多重できたと言われています。(注4)
見た目は「太いケーブル1本」でも、中では大きなコンサートホールいっぱいの人が同時にしゃべっているくらいの密度、というイメージです。
長距離電話は「専用レーンを占有する」贅沢サービスだった
アナログトランクでは、1通話ごとに専用の“周波数レーン”を確保していました。
東京〜大阪の長距離通話は、高速道路の1車線をその人のためだけに占有しているようなもの。
昔の長距離電話料金が高額になる理由はこういった背景もあったのです。
“ラジオ局をギュッと詰め込んだ”みたいな世界
FDM は、ラジオ局が周波数ごとにチャンネルを持つのと同じ発想で、通話ごとに細い周波数の枠を割り当てていました。
一本のケーブルの中に、超狭いラジオ局が何千局も入っていると思うと、イメージしやすいです。
デジタル・トランク(TDM/PRI)の時代
PRI(Primary Rate Interface)
SIPが登場する直前の主流なトランク技術は、デジタル回線を用いたもので、特にPRI(Primary Rate Interface)が代表的です。
アナログトランクが周波数帯域で分割していたこと(FDM)に対し、PRIは、デジタル回線を「時間のコマ」に細かく区切るTDM方式を用い、そのコマごとに通話を載せていくことで、1本の線で多くの電話を同時に扱えるようにしました。(注5)
PRIは通常、1回線あたり最大23チャネル(通話経路)に制限され運用されていました。(注6)
デジタル・トランク(TDM/PRI)時代の課題
PRI/TDMベースの固定的なチャネル数(23チャネル)の制限と、物理的な回線設備(メタル回線など)に依存する旧来のシステム全体の機能的・コスト的限界がありました。こういった背景からSIPトランクが登場することとなっていきます。
デジタルトランク時代を判りやすくイメージすると…
T1 は「1962 年生まれのデジタルの革命児」
T1(Transmission System 1)は、1962年に Bell Labs が実用化した世界初の本格的デジタル多重音声回線でした。
たった1本の銅線で24通話を同時に運べるようにしたことで、都市間の回線コストを大きく下げました。(注7)
「ノイズに強いから、クレーム電話が減った」
デジタル化の狙いは、容量だけでなく品質安定。
アナログはノイズが乗るとそのまま音が汚れますが、デジタルは0と1のパターンを再生するだけなので、途中で少し崩れても復元しやすい。(注8)
「声が遠い」「ノイズがひどい」という回線品質クレームを減らすための投資でもありました。
800 番、コールセンター文化を裏で支えた
T1/デジタルトランクは、受信者無料通話(トールフリー通話=日本の0120ようなもの)のように1つの番号で大量の通話をさばくことにも大きく貢献することとなりました。
コールセンターの大量着信もさばきやすくしました。(注9)
「全国から同じ番号にかけても、裏側では24チャンネル・48チャンネル・96チャンネル…とデジタルトランクが受け止めている」イメージです。
代表番号の裏側の「見えない行列」
会社の代表番号にかけると、裏ではPRIなどのトランクで“同時通話枠”が予約されます。
例:
- PRI 1本=「23人まで同時にオペレーターと会話できる券」
- 23人を超えると、ビジートーン or 自動音声の待ち行列
- 「何本トランクを入れれば、“待たせすぎず・空きすぎず”のバランスになるか?」という行列マネジメントを行う。
注
(1) AT&T. Bell System Practices, Section 500-114-100, “Ringing Limitations”, Issue 5.
URL: https://vintage-phones.com/phonefiles/Bell%20System%20Practices%20500-000-000%20to%20999-999-999/500-114-100_I5.pdf
(参考)Party line (telephony), Wikipedia.
URL: https://en.wikipedia.org/wiki/Party_line_%28telephony%29
(2) Berry, R. “Lecture 20: Switching and Multiplexing II”, Northwestern University (ECE 333).
URL: https://www.eecs.northwestern.edu/~rberry/ECE333/Lect2001/lec20.PDF
(3) ITU-T. Recommendation P.310: Transmission characteristics for telephone-band (300-3400 Hz) digital telephones. 2000.
URL: https://www.itu.int/rec/T-REC-P.310/en
(4) Kelcourse, F. C.; Herr, F. J. “L5 System: Overall Description and System Design”, Bell System Technical Journal, Vol. 53, No. 10, 1974, pp. 1901–1933.
URL: https://ftpmirror.your.org/pub/misc/bitsavers/magazines/Bell_System_Technical_Journal/BSTJ_V53N10_197412.pdf
(5) ITU-D. “ISDN interface specifications(BRI/PRI overview)”, Study Group II, Question 16-2/2 Document.
URL: https://www.itu.int/itudoc/itu-d/question/studygr2/q16-2-2.pdf
(6) Cisco Systems. “Configuring ISDN PRI”, Dial Technologies Configuration Guide.
URL: https://www.cisco.com/c/en/us/td/docs/ios/dial/configuration/guide/15_0s/dia_15_0s_book/dia_cfg_isdn_pri.pdf
(7) Smith, D. R. Digital Transmission Systems. Springer, 1985.
URL: https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/978-1-4757-1185-1.pdf
(8) Freeman, R. L. Fundamentals of Telecommunications, 2nd ed., John Wiley & Sons, 2005.
URL(電子版抜粋): https://library.uoh.edu.iq/admin/ebooks/8056-freeman—fundamentals-of-telecommunications-2nd-ed.pdf
(9) U.S. General Services Administration (GSA). “Service Guides: Toll Free Services (TFS) – Networx Unit Pricer”.
URL: https://networx-public-pricer.eos.gsa.gov/text/guide/?service_id=TFS
(補足)Cisco Systems. “Configuring ISDN PRI” (Channelized T1 ISDN PRI offers 23 B channels and 1 D channel).
URL: https://www.cisco.com/c/en/us/td/docs/ios/dial/configuration/guide/15-mt/dia_15_mt_book/dia_cfg_isdn_pri.html