オフィスの電話を見直そう -クラウドPBXの活用 前編-

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IPとクラウドで電話のDXを

DXとリモートワーク、そしてアフターコロナでのオフィス回帰など、ここ数年、オフィスの環境は大きく変化しています。時代の流れを採り入れながら業務を改善していくポイントは、これまではあまり改革の手が入らなかった電話。最近は電話のDXも進みつつあり、その推進役は「クラウドPBX」です。

目次

ハイブリッドワークとクラウドPBX

ここ数年、皆さまのオフィスでもリモートワークが浸透したことと思います。“働き方改革”の手段の一つとして推奨されたものの、導入は一部に留まっていましたが、コロナ禍で一気に進展したことは周知の通りです。その一方、リモートワーク環境での電話の使い勝手に、課題を感じた方も多いのではないでしょうか。

会社の構内では、社外から着信した電話の取次ぎ、保留、転送などは、電話交換機とビジネスフォンを軸にスムーズに回っていたとしても、在宅時やサテライトオフィス、外出先では、同様のコミュニケーションは難しいのが実情でしょう。

外出先での通話、オフィス風景とリモートワークのイメージ
スムーズな電話コミュニケーションは難しい

アフターコロナと言われる昨今、オフィスへの回帰も進んでいますが、多くの企業ではリモートの利点も生かす“ハイブリッドワーク”を実践していると思います。この環境でオフィスのスペースと同様、スムーズな音声コミュニケーションが低コストで実現できるソリューションとして、「クラウドPBX」が拡がってきました。

PBXからIP-PBX、クラウドPBXへ

まずクラウドPBXのジャンルが定着した経緯を簡単に見ておきましょう。
一定のエリアに散在する複数の電話加入者の回線を集約し、呼出しに応じて回線を切り換えて、加入者同士を接続する装置が、いわゆる「電話交換機」です。大別すると、加入者を収容する加入者交換機と交換機間をつなぐ中継交換機があります。

電話交換網のシステム構成
電話交換網のシステム構成

企業・団体の構内に設置され、外部からの着信と外部への発信(外線)、着信した外線の振り分け、構内での転送、そして内線同士の通話などの機能を担っているのが「構内交換機(PBX:Private Brunch eXchange)」です。

PBXのシステム構成と主な機能
PBXの機能。外線の発着信、内線との接続などの機能を持つ

20世紀の初頭からビジネス社会の電話の機能を支えてきたPBXですが、2000年代に入った頃から、その技術と機能は急速に進化。この時代は、現在のクラウドPBXにつながるIP(Internet Protocol)化、そして2010年代にはクラウド化の波がありました。

電話をIP化した意義は?

IP化はインターネットの普及に伴い、従来からの通信システムの仕様をIPに統合する動きです。電話(音声)とデータ通信が前提のIPはもともと異質の技術ですが、インターネットの普及後はVoIP(Voice Over IP)というプロトコル(通信方式)を使って、音声もインターネットで送受信できるようになっています。

電話網をIP方式に移行するNTTの「PSTNマイグレーション」*というプロジェクトで、公衆網のIP化も進行。2024年1月には中継網のIP化はほぼ完了しています。こうした流れもあってPBXの分野でもIP化は進み、IPの回線とプロトコルを使う「IP-PBX」が利用されるようになっていきました。

PSTNマイグレーションのイメージ
PSTNマイグレーション。回線交換方式の電話網をパケット交換方式(IP)に移行

*PSTN(Public Switched Telephone Network)。固定回線を使った公衆電話網で、アナログの加入電話網とISDNがこれに該当。NTTの「PSTNマイグレーション」では、約10年をかけて段階的にIP方式への移行が進められた。

ネットワークを統合すれば一元管理ができ、サービスの連携もしやすくなります。また通信料金は、従来の電話は距離と時間に応じて加算する方式ですが、常時接続が前提のインターネットは、距離と時間には依存しません。つまり、運用性と拡張性、そして通信コストの点で電話網のIP化にはメリットが多いというわけです。

交換機をクラウド化する利点は?

もう一つの本流はクラウド化です。
オフィスでは、社内外との連絡はメールやオンライン会議、ビジネスチャット、スケジュール調整はグループウェア、加えて顧客管理などの業務アプリを使いますが、主要サービスのソフトウェア本体とデータはクラウド側です。今ではクラウドの存在を意識せずに使っているサービスもあるかもしれません。

クラウドには長所短所があるのですが、大きな利点として、オンプレミス(自社構築)のシステム導入がないため、初期投資が押さえられること、そして機能の追加・修正はクラウド側で行われ、ユーザー企業はサービスの稼働後もフレキシブルに調整できる点が挙げられます。

このような利点から情報システムのクラウド化が進みましたが、音声系も例外ではありません。通信遅延と音声の品質に対する要求が厳しい電話は、クラウド化が難しいジャンルでしたが、通信回線の大容量化やリアルタイム通信のプロトコルの整備など、周辺技術の進歩によって徐々に課題をクリア。こうした流れを受けて、PBXもIP-PBXへ、そしてクラウドPBXへ進化したというわけです。

クラウドPBXのシステム構成
クラウドPBXのシステム構成。交換機とその周辺システムはクラウド上に設置

改めて「クラウドPBX」とは?

ここで改めて、クラウドPBXの特徴と他の方式との違いを整理しておきましょう。

PBX従来の構内交換機(レガシーPBX)
IP-PBX IP方式の構内交換機
クラウドPBXクラウド側に置く構内交換機

交換機の特徴「PBX(PBX:Private Brunch eXchange)」

企業・団体の構内に設置された電話機を制御する装置。外線との接続、内線同士の通話、転送などの機能を備え、専用のハードウェアをオンプレミス(自社設備)で設置します。後述の2タイプと区別する際は、レガシー(伝統的)PBXとも呼ばれます。

交換機の特徴「IP-PBX」

音声の伝送と交換をIP方式で制御する装置。システム形態はレガシーPBXと同様、オンプレミス。専用のハードウェアが使われる場合が多いのですが、機能自体はサーバーなどにソフトウェアを実装して構築できます。交換機と通信端末を接続する回線は一般のLANケーブル、端末はIP対応のビジネスフォンなどが使われます。

IP-PBXの仕組み
IP-PBXのシステム構成。IP方式の通信機器が利用できる

交換機の特徴「クラウドPBX」

交換機能をクラウド側で構成するシステム。レガシーPBX、IP-PBXとの違いは、交換処理に必要なハードウェア/ソフトウェアは、事業者がクラウド側で構築・管理する点です。サービス機能の新設や調整もクラウドで行い、ユーザー企業は必要な機能を選択して利用します。

PBXIP-PBXクラウドPBX
システム形態オンプレミス(自社構築)オンプレミス(自社構築)クラウド(クラウド事業者)
通信回線・端末電話用の回線
PBX仕様に準じた電話端末
インターネット
IP方式の回線と機器
インターネット
IP方式の回線と機器
利用できる拠点交換機を設置した構内IP接続ができる複数拠点IP接続ができる複数拠点
PBX、IP-PBX、クラウドPBXの特性

クラウドPBXのアドバンテージ

クラウドPBXのメリットは、まず複数の拠点から交換機能を利用できる点が挙げられます。レガシーPBXの場合、交換機を利用できるのは、ハードウェアェアを設置する拠点に限られますが、クラウドPBXはインターネットにつながる複数の拠点に拡大できます。

クラウドPBXの機能は複数拠点で利用できるイメージ
クラウドPBXは複数の拠点で交換機能が利用可能

もう一つはコスト面。交換機の自社導入が不要なため初期費用が抑えられます。その一方、一般のクラウドサービスと同様、サーバー(クラウドPBX)の利用料、ランニングコストは発生し、交換機能を利用する拠点には、インターネット回線の月額料金もかかります。

月額などの利用料は必要ですが、複数拠点で使えるクラウドPBXの導入により内線のエリアが拡大し、在宅勤務や外出中の社員との連絡にかかっていた通信費を削減できます。リモートワークの比重が高い企業には、この点は大きなコストメリットになるでしょう。

この他にも、クラウドPBXには、個人所有のスマートフォンをビジネスフォンのように使える、タブレット端末など多様なデバイスが接続できる、ビジネスチャットなどのコミュニケーションツールとも連携しやすいなどのメリットがあります。このあたりの詳細は、後編で取り採り上げることにします。

参考:IP電話サービスの基盤技術 「SIP」

IP電話やIP-PBX、そしてクラウドPBXなど、IP方式による電話は、SIPというプロトコルを基盤に構成されています。クラウドPBXの仕様と動作の話では、SIPのキーワードがよく出てきますので、ここでポイントを押さえておきましょう。

SIP(Session Initiation Protocol:シップ)は、インターネットなどIP方式のネットワークで送信側と受信側の2地点間を結び、音声を送受信する通信路の設定、音声データの伝送、そして終話の際に通信路を切断する方法を定めたものです。

具体的な動作手順ですが、一般の加入電話網を使って電話をかける際は、以下の手続きを踏みます。

SIPの動作イメージ。呼出しと通話路の設定、回線の切断を制御
SIPの動作イメージ。呼出しと通話路の設定、回線の切断を制御
  1. 送信元が相手の電話番号を入力
  2. 電話番号の情報を交換機に送信
  3. 着信先の番号を受け持つ交換機に転送
  4. 着信先の電話機を呼び出す

着信先が応答すると、送信元~着信先間で
通話用の回線が設定される

これらのステップで回線が設定された後は、サーバーは通話には関与しません。
IPネットワークで音声通信を制御するプロトコルは他にもありますが、現在はほとんどのサービスがSIPを採用していると考えていいでしょう。

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