オフィスの電話を見直そう -クラウドPBXの活用 後編-

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クラウドの特性を生かし業務の刷新を

「オフィスの電話を見直そう」のタイトルで、前編では「クラウドPBX」が登場したバックグラウンドと「PBX」「IP-PBX」との違い、クラウドPBXの特徴、加えてIP電話の基盤技術である「SIP」を採り上げました。今回の後編では、クラウドPBXのサービス機能の詳細と拡張サービスを中心に見ていきます。

目次

クラウドPBXのバックヤードは?

クラウドPBXの主な構成要素は、サービス事業者が構築・運用する交換機、ユーザー企業の拠点、及び各拠点で利用する通信デバイスです。バックヤードの交換機とその周辺システムは事業者が管理し、ユーザーはその存在を直接意識することはありません。

ここで言う企業の拠点には、本社・支社、コールセンター、サテライトオフィス、自宅などの環境が含まれます。クラウドPBXとレガシーPBXのシステム構成の相違は、クラウドPBXでは拠点間とユーザーが使う通信機器は、電話専用の回線ではなくインターネットでつなぐ点です。

クラウドPBXのシステム構成図
クラウドPBXのシステム構成。インターネットで各拠点、通信機器を接続

IP方式の回線とデバイスの利用はIP-PBXも同様ですが、IP-PBXの場合、交換機はクラウド側ではなくオンプレミス(自社構築)です。PBX、IP-PBX、クラウドPBXの違いとそれぞれの特徴は、前編も参照してください。

クラウドPBXはロケーションフリー

クラウドPBXの特長として、通話する場所を選ばない点がまず挙げられます。
本社や支社、常駐する提携先、訪問先、そして在宅時など、利用登録した通信機器があれば、どこでも会社宛に掛かってきた電話に応答できます。コロナ禍でリモートワークに移行したオフィスでは、大事な電話を取り損ねないため、交代で出社した時期もありましたが、クラウドPBXを使っていた企業では柔軟に対処できていました。

クラウドPBXの特性・ロケーションフリー
クラウドPBXはロケーションフリー

スマートフォンを内線化

ロケーションフリーに関連する機能として、スマートフォンの内線化があります。
専用アプリをインストールすれば、どこにいてもスマートフォンから内線番号での通話ができるようになります。例えば、現状のオフィスでは、会社の番号で受けた電話は、担当者が外出中だった場合、一度切ってから担当に伝えて折り返しますが、クラウドPBXの導入環境では、保留にして担当につなぐことができます。この転送は内線扱いになり、通話料金はかかりません。

スマートフォンを内線化するイメージ
社用・私用のスマートフォンも内線化が可能

クラウドPBXの稼働環境はデバイスフリー

レガシーPBXは、交換機と各部署の電話機を回線でつなぎ、交換機を介して外線の発着信や内線同士の通話を制御します。通常は交換機の仕様に合わせた電話機しか利用できませんが、クラウドPBXの場合、IP電話機、スマートフォン、タブレット端末、PCなど、IPベースの機器が使えるデバイスフリーの環境が構築できます。

クラウドPBXで利用するデバイスには、専用のソフトウェアをインストール。例えば、PCの場合、専用ソフトを実装/設定すれば、オンライン会議などで使うマイクとスピーカーと組み合わせて、ビジネスフォンと同様の使い方もできます。

スマートフォンは、業務用の端末を一人ひとりに配布するゆとりがない企業も、個人の端末にソフトを搭載して、社用と私用を切り分けた使い方もできます。従来のPBX環境では、個人の端末から社外に連絡すると電話番号を外部に知られてしまいますが、クラウドPBXの環境では会社や部署の番号で発信できます。

クラウドPBXの特性・デバイスフリー
デバイスフリーの環境を実現

コミュニケーションツールとの連携

クラウドPBXは、各種コミュニケーションツールや業務アプリとの連携が容易です。例えば、日経225企業の90%以上が利用しているとされるMicrosoft Teams。導入企業では、メールやミーティング、電話もTeamsに統一する傾向があります。外線を使う場合、通信キャリアとの連携が必要ですが、最近はTeamsからクラウドPBXを介して、外線の発着信ができる機能を採り入れるサービスも増えてきました。

この他にも、Slackなどビジネスチャットとの親和性も高く、チャット画面から内線を起動して音声で補足するような使い方もできます。もう一つは、CRM(顧客管理)系アプリとの連携。例えば、外線を着信した際、顧客情報を画面表示する「着信ポップアップ」や、起動中のカスタマーサポート用のアプリから外線発信ができるなどの機能も搭載されるようになってきました。

音声系の拡張サービスもフル活用を

音声系の拡張サービスでは、まず通話の自動録音があります。記録が残してあれば、履歴を参照し顧客との発着信の傾向を把握する、通話内容を確認して“顧客の声を聞く時間が短い”“新機能をもう少していねいに説明すべき”など、対話の質的向上に役立てることができます。このような機能は、特にコールセンターで有効活用できるでしょう。

一部のオンライン会議ツールでは、音声を認識してテキスト表示する機能も実装されています。一部ではこのようなサービスと組み合わせ、例えば、聞き逃した発言の内容確認や、会議を振り返りながら重要項目をスピーカーからリピートするなど、より質の高い使い方も行われています。今後、音声とテキストの組み合わせは、その企業の業務に応じたいろいろなアイデアが出てくるでしょう。

クラウドPBXの録音機能の例
自動録音したデータを有効活用

クラウドPBX、選択のポイントは?

音声の品質

クラウドPBXを選択するポイントは、まず音声の品質です。ここはIP方式の電話に共通するウィークポイントなのですが、クラウドPBXも場所や時間帯によって音質が左右されるケースがあるため、事前に自社の利用環境を検証した上で事業者に確認してください。

利用できる電話番号

クラウドPBXは、利用できる電話番号に制限がある点は注意が必要です。事業者によっては、IP電話専用の「050番号」が割り当てられ、「03-○○○○-○○○○」「025-○○○-○○○○」のような「0AB~J番号」*が使えないケースがあります。

*0AB~J番号
「0ABCDEFGHJ」の先頭の数字「0」と、それ以外の英文字に任意の数字を割り当てる番号形式。「I」は数字の「1」と混同しやすいため使わない。国内では一般の加入電話網やISDNに割り当てられる。

● 市外局番 0AB~J

● IP電話番号 050

● フリーダイヤル 0120、0800など

クラウドPBXで利用できる電話番号(事業者によっては制限あり)

現在は050番号も普及していますが、0AB~J番号には根強い“信頼感”があるようです。1人ひとりの社員には050を割り当てても、代表番号には0AB~Jを使いたい場合は、この点は考慮した方がいいでしょう。なお、レガシーPBXからクラウドPBXに一気にリプレースする際は、この問題が発生するケースがありますが、本社はレガシーを残し、各支社はクラウドPBXで構成するハイブリッドで運用する選択肢もあります。

サードパーティツールとの連動

Microsoft TeamsやZoom、Slackのようなコミュニケーションツール、CRM系などのクラウドサービスは、今後も利用は拡がるはずです。クラウドPBXの選択時は、すでに全社的に利用しているツール、導入予定のサービスがあれば、連携の可否を確かめましょう。

セキュリティ対策

セキュリティはクラウドPBXの課題の一つです。運用をクラウド事業者に委ねるサービスは、導入企業ができる対策には限界があるからです。もちろん、クラウド事業者もできる限りの対策は講じていますが、セキュリティに100%安全はありません。特にここ数年、標的型攻撃やゼロデイ攻撃など、先鋭化した攻撃が多発し、決済事業者やクラウド事業者のような一般企業に比べガードが固い企業も被害を受けるケースが出ています。

セキュリティ対策のイメージ図
クラウドPBX側のセキュリティ対策に留意

クラウドPBXの導入時は、Webページなどで公開されている事業者の対策を確認しましょう。例えば、ファイルにアクセスする際の多要素認証(少なくとも2段階認識)*、通信の暗号化、ログイン規制といった必要最低限のセキュリティが確保されているか確かめてください。

*多要素認証/2段階認証
多要素認証は、知識情報、所持情報、生体情報の認証の3要素のうち、二つ以上を組み合わせて認識を行う方式。2段階認証は、2段階の認証を経るが要素の数は問わない。例えば、知識情報のパスワードと秘密の質問を組み合わせる。多要素認証の方が安全性は高い。

クラウドPBXとオフィスコミュニケーションの今後は?

この先、クラウドPBXを軸としたオフィスコミュニケーションは、どのような方向に発展していくのでしょうか。

一つは、すでに一部では開発と導入も進んでいますが、録音した音声を分析して顧客管理やマーケティングの強化に活用することです。今後は生成AIも採り入れ、キーワードから自動録音した内容を内部監査に利用したり、顧客との対話から基準となるルーティンを学習し、コールセンターなどのオペレーター業務の一部をロボットに委ねたり、といった展開も考えられるでしょう。

このようにクラウドPBXの稼働とその高度利用は、単に電話のDXに留まらず、オフィス業務の改善、そしてビジネスの変革に結びつく可能性を持ったソリューションなのです。

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